| ユーザ中心設計のすすめ(第18回)― 上手く入力できない!携帯電話のパスワード |   | 
			
			
		
					
				| 2008/11/14 金曜日 07:32:10 JST | 
					
			| ===================================== 本編
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 以前、携帯電話を替えた時のことです。
 これに伴いEdyやモバイルSuicaなど、前の機種で使っていたおサイフケータイのデータも新しい機種へ移しました。
 
 それから、何日か経った頃でしょうか。
 Suicaの残高が少なくなっていたのでチャージ(入金)をするため、モバイルSuicaを起動、ログインをしようとしたのですが、いつも使っていたパスワードが入力できません…!
 
 前の機種でモバイルSuicaを登録するときに、数字とアルファベットを組み合わせた奥深いパスワードにしたのが仇となってしまったようです。
 
 一般的な携帯電話の場合、1つのキーに数字と複数のアルファベットが割り当てられています。"C"と入力したいときはアルファベット入力モードにして[2]を3回押すわけですが、新しい機種では、[2]を押した瞬間、他の人から見られてもパスワードがバレないように"*"と表示されてしまいます。
 数字だけのパスワードであれば、それぞれの数字に対応するキーを押していけば問題なく入力できるのですが、これがアルファベットとなると、いま入力している文字が"A"なのか"C"なのかさっぱりわからなくなってしまいます。
 
  図1:入力した内容が*で伏せられている
 
 ちなみに前の機種では、"A→B→C"と文字を送っている間は入力している文字が表示されたままで、カーソルが次に移ったタイミングで"*"が表示されるようになっていました。
 
  図2:カーソルが移ると"*"になる
 
 セキュリティと操作性の面、どちらを優先させるのかは悩ましいところですが、複数の機種をまたいで使われるサービスが運用されている以上、その受け皿となる携帯電話も、必要のある部分に限っては、統一されたインタフェースにしていかなくてはならないのでしょうかね。
 
 ※本編部分は使いやすさ研究所<http://usability.novas.co.jp/>の使いやすさ日記(No.364 担当:関野)より一部加筆修正して転載。
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 解説
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 「トレードオフの要件はユーザ視点でのバランスを取る」
 
 今回の例に限らず、セキュリティ(防犯性、など)とユーザビリティ(操作性、など)のトレードオフ(背反する関係)要件に関して、セキュリティが優先され、日常の生活が不便になっている状況に良く遭遇するようになりました。
 
 他に例をもう一つ上げると、銀行のATMで暗証番号の盗み見防止のために10キーがランダムに並んで表示されるものがあります(*)。いつもと違う並びの10キーを目にして、4桁の数字を入力するのに戸惑ったりしたことがある方も多いのではないでしょうか?この例で言うと、タッチパネルでランダム配列をすることのユーザビリティ上の問題は、「若干ユーザに入力の手間をかける(が入力そのものができなくなることはまずない)」と言えます。また本件で言えばさらに銀行側の視点として、一人あたりの作業時間の増加が混雑時にも許容できる範囲かどうかの確認も必要です。こうした2つのデメリットが許容範囲で、それ相応の防犯性の向上にが見込めるのであれば、バランスのとれた解の一つと言えるかと思います。
 
 さて携帯電話のパスワードですが、図1の仕様でのユーザビリティ上の問題は、本編でも述べている通りです。これでは人によっては毎回運を天に任せるような感じで入力をすることになりそうです。最近ではキー押下後一定時間が経つと入力したものが確定されてしまうものまであり、なおさら難しくなります。対して図2の仕様はこうしたユーザに起こるべき事態を憂慮し、一瞬のセキュリティ性を少し緩めることになっても、日常でのユーザビリティを確保した方法と考えられます。
 
 個人的には前者は、アルファベット入力時の問題を十分に検証せずに作られた仕様に見えます。これでなかなかうまく入力できないユーザにとっては、「危ないから使うな」と言われているような仕様となってしまい、せっかくのサービスも使えない可能性も出てきてしまいます。図2のセキュリティが図1と比べて著しく低下しないのであれば、これによるユーザビリティの向上は非常に効果的と言えます。今回の事例に関わらず、トレードオフとなるような要件を検討する際は、ユーザに実際に起こると思われる事象を十分に予測した上で、「ユーザの視点に立って、両者の最もバランスの良い仕様」とすることが重要です。
 
 *ATMの10キーに関しても「使いやすさ日記」で取り上げてますので、ご興味があればこちらもご参照ください
 http://usability.novas.co.jp/diary/416.html
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 筆者プロフィール
 龍淵 信
 
  1963年生、1986年法政大学工学部建築学科卒業後、工業デザインを勉強。 1992年株式会社ノーバスに入社。2001年4月にグループ会社の株式会社ユー・アイズ・ノーバスの設立に参画。
 2005年10月グループ会社である株式会社U'eyes 
Design(ユー・アイズ・デザイン)の執行役員を経て、2007年10月よりノーバスの経営戦略室とU'eyes 
Designのシニアアドバイザーを兼務。現在に至る。
 携帯電話などのコンシューマ製品、公共機器、OA機器のユーザインタフェース開発およびユーザ評価・調査に数多くかかわり、特に自動車用システムは、ここ10年ほどで150ほどのプロジェクト実績を持つ。
 
 株式会社 
U'eyes Design:http://ueyesdesign.co.jp
 
  
 
 
 
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