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中小企業の事業承継問題について(6) プリント
2019/01/24 木曜日 13:08:43 JST

(第6回) 事業承継と経営承継円滑法

中小企業の経営者の中には池井戸潤著の「下町ロケット」を愛読されている方が結構おられる。正月2日放映のテレビドラマ「下町ロケット・ヤタガラス」は最新の農業技術と人口衛星とに関するものであったが、その第1作である「下町ロケット」は日本を代表するロケットメーカに対抗し、そのロケットに搭載するエンジンの燃料バブルの開発に挑む中小企業の話であり、2008年4月から週刊ポストに連載されたものである。

 補助金・助成金を主とする各種の拡大育成政策一辺倒であった中小企業政策が、中小企業の事業存続を図る政策に変革したことを示す象徴的な法律である「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定されたのは、同じ2008年であった。高度成長を続けてきた日本経済のピークであり、バブル経済の崩壊が始まった1993年から15年後に、本法律が制定されたのは、この間に大きな変革があったことを示す。

 定量的に見る限り、中小企業の毎年の企業数や倒産件数は景気に左右されている。倒産の事由別を示す統計は見当たらないが、定性的にはバブル経済崩壊直後は、土地を担保に過剰融資を受けていた企業の倒産が多く、それに続くデフレ経済下では、中国などの低賃金労働力による商品との価格競争に敗れた企業の倒産が多かった。今生き残っている国内中小企業は、優れた技術力・経営ノウハウなどで、競争に勝ち抜いている企業である。

 バブル経済が弾けてから7年後、ヴイエムシイが設立された2000年ごろ生き残っていた中小企業(加工業)は、①短納期の小ロット品、②高機能品・高品質品、③ニッチ市場向け特殊製品のいずれかを供給することのできる企業であった。海外の低賃金労働力製品との競争に敗れた中小企業は既に淘汰されていた。この時代から後に生き残った中小企業を描いたのが「下町ロケット」であり、中小企業の経営者が愛読する理由だと思う。

 「下町ロケット」に描かれる中小企業は数人の技術スタッフを抱える、総勢200人ほどの中規模企業だが、世の中には従業員数20人以下の小規模企業が総企業数の約85%と圧倒的に多い。その中の製造業の多くは経営者個人が保有する技能・技術ノウハウに依拠している。しかもそれらが高機能・高品質を売りにする日本の産業を下から支えている。であるからこそ、これらの中小企業の事業承継が重要になってくる。

 2000年ごろに生き残っていた中小企業でも、その後の産業構造の変化に伴う市場縮小や技術革新への対応が出来ずに倒産したり、高齢化した経営者個人が引退し廃業したケースは多々あった。だが、高度の技能・技術ノウハウを持つ事業承継者が居るにもかかわらず、相続に伴う相続税の負担、相続による財産分割による事業資金の枯渇、さらには経営の主体性の毀損などにより事業承継が困難なケースが少なからずあった。

 このような事態に対応し「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定された。本法第1条には「我が国の経済の基盤を形成している中小企業について、代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法の特例を定めるとともに・(中略)・中小企業における経営の承継の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とする」とある。

 本法律以前は、相続において事業承継者だからと言って、特別に優遇されることはなかった。遺言書に事業承継者に全資産を相続させると書かれていても、民法は、それ以外の相続権者に対し法定相続分の1/2を相続する権利(=遺留分)を与えている。本法律は、この民法の定めを一部制約する特例を設け、事業承継者が相続する事業経営に必要な自社株式については、他の相続権者の遺留分減殺請求権が及ばなくしている。

 本法律の目的が事業承継者による経営の継続にあるから、事業承継者が既に自社株を過半数所有している場合は適用されない。これを含め、特例とは言え、他の相続権者の権利を侵害するのであるから、この法律の適用を受けるには当然いろいろな制約がある。また、遺留分減殺請求権を特例を設けて制約したからと言って、相続に伴う金銭問題の全てが解決することにはならない。

 だから本法律により、中小企業信用保険法や日本政策金融公庫法に特例を設け、事業承継伴う資金ニーズに対応できる借入れが出来るようになっている。例えば、事業の継続遂行に不可欠な資産(設備機器)を担保とした借入(=債務)を弁済(=返却)するに必要な融資を受けられる。また、取引相場のない自社株式等にかかる相続税の納税猶予もできる。もちろん事業承継者が相続権者でない場合も規定されている。

 本法律の適用を受けるには、あらかじめ事業経営者が生前贈与や遺言書で事業承継者を明確にしておくことが大事である。身内の者が事業承継者として決まっているなら問題ないが、身内に事業承継者がいないとか、複数の推定相続人の事業承継者候補が居る場合などは、本法律の適用を云々する以前にすべきことがある。中小企業の経営者は法律を活用し事業承継がスムーズに成されるように常に心すべきである。

         文責 廣瀬 薫 (ファイナンシャル・プランー)

 

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