~DEC・第122回産学交流サロン~
"触感"が疑似体験できる装置も近く発表
横浜企業経営支援財団ではこのほど、第122回産学交流サロンで「微細加工が拓く未来 ――小さいことはこんなに素敵」をテーマにセミナーをおこなった。講師は慶應義塾大学理工学部機械工学科の三木則尚専任講師。
同氏の研究室では「新たな製作技術により、これまで誰も思いつかなかったデバイスを実現する」ことをポリシーとし、微細加工技術による革新的マイクロシステムの創製を研究している。
■2015年のサブメゾスケールデバイスの市場規模は11億ドル
三木研究室はロボットの研究をルーツに、現在はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems=マイクロマシン)の研究を行っている。なかでも半導体回路の製作に用いられるフォトリソグラフィーの技術を応用し、マイクロメートル(1mmの1000分の1)~ナノメートル(1㎜の100万分の1)の構造物を作ることを研究している。
近年、マイクロガスタービンや医療用具、ラボオンチップ(ガラスの表面に微細な溝やくぼみを刻み、そこに化学反応や細胞培養などのラボプロセスを集積化させたもの)、などサブミリメートルサイズの「サブメゾスケールデバイス」の需要が高まっている。これらは2015年に市場規模が11億ドルになると予想されている。
■フォトリソグラフィーで超極細ダイヤモンド工具
現在、このようなデバイスの加工にはフォトリソグラフィーの技術が応用されている。しかし、この技術では柱状の形状に掘り込む2次元的な加工しかできず、また材料の選択にも限りがある。そこで、デバイスをこの技術で直接作るのではなく、加工は3次元加工できる機械で行い、フォトリソグラフィーはその機械が使用する、超極細ダイヤモンド工具の製造する。
たとえば、マイクロリアクタの加工では、幅、深さともに50μm程度の流路を作らなければならないが、そのためには、工具の刃も50μm以下にする必要がある。しかし超微細化することで刃が低剛性化し、破損しやすくなっては困る。
フォトリソグラフィーならダイヤモンドを酸素系プラズマでエッチングして、このような工具を作ることができる。それは、ダイヤモンドの表面をアルミなどの金属でマスキングし、その上から酸素系プラズマを照射する方法で、100μm以下の微細な加工も高精度で行えることが実験で確認されている。また、これ以外にも熱化学反応を利用して加工する方法もあり、いずれも低コストで大量生産することができる。
■メガネで人の視線を検出する
三木研究室ではMEMSによる、ヒューマンインターフェースの研究もしている。いま手がけているのは「透明色素増感素子を用いた視線検出デバイスの開発」と「変位増幅機構をもつ触覚ディスプレイ」だ。
このうち、視線検出デバイスは人の視線がどこに向けられているのかを検出するもので、医療・福祉や情報通信、安全・安心などの幅広い分野で利用することができる。現在、主流となっているのは外部カメラを使った視線の検出だが、これだと、検出される人の行動範囲が制限され、精神的にも圧迫される。
そこで研究しているのがメガネのように装着して視線を検出するシステムである。これはメガネのレンズ部分に透過型光センサをアレイ状に配置し、白目と黒目の反射光の差により瞳の動きを検出する。この装置なら人の自由な行動や視野を妨げず、精神的な負担が小さい。
■MEMSで触感も疑似体験できる
透過型光センサは色素増感素子を使用したもので、その動作原理は、光の照射で色素が励起され電子を放出し、その電子を対極で電解質溶液が受け止め、電子が電解質溶液から色素に戻るというものだ。
一方、触覚ディスプレイは触感を疑似体験できる装置の研究で、実用化されれば遠隔操作で手術を行ったり、あるいはインターネットの通販で商品を紹介したりする際のサンプルとして触らせることができる。また、視覚、聴覚、味覚に触覚を加えられるため、より成熟度の高いディスプレイを作り出すこともできる。これまで触覚を検出し、それを伝達するディスプレイがなかったことから、その応用分野は多岐にわたるものと考えられる。
■マイクロアクチュエータが肌触りを作る
では、どのようにして触覚を検出するのかというと、それは人の皮膚には触覚受容器が高密度に分布しているため、これにアレイ状に並べたマイクロアクチュエータを触れさせ、触感を再現することで疑似体験する。これはまさに小型化、並列化、集積化というMEMSの特徴をすべて活かしているといえる。
マイクロアクチュエータは1素子あたり2mm角になっており、これらを多数並べてそれぞれが隆起することで触感を作り出す。特に人の皮膚が感知できるだけの変位を実現するため、変位増幅機構を有している。現在、研究室ではこの触覚ディスプレイの試作を行っており、近く発表できると思う。
■MEMSは産業のマメになる
研究室ではこのほかマイクロ生化学分析などの研究中だが、半導体が産業のコメと呼ばれ大きな発展を遂げたように、MEMSはこれからナノテクやバイオなどのプラットフォームになることから「BEANS」(Bio Electro-mechanical Autonomous Nano Systems)となり、産業のマメになることは間違いない。
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