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AEC(ASEAN経済共同体)への戦略的アプローチ!(その6―上) プリント
2016/03/15 火曜日 20:59:26 JST

前号のベトナムに続き、今回は長いトンネルを抜けて近年成長著しいフィリピンを取りあげる。

1.日本とフィリピンの関係

本年1月末に天皇・皇后両陛下が訪比され、第二次世界大戦の戦没者を慰霊されたことは記憶に新しいが、昨年はアキノ大統領の公式訪問はじめ、閣僚級の来日も多く経済を中心に幅広い両国関係の緊密度が高まっている。 

安土桃山時代の堺の商人・呂宋(ルソン)助左衛門による御朱印船貿易の歴史とか、徳川幕府のキリシタン禁令によるキリシタン大名高山右近のマニラへの追放など(マニラ市内に高山右近の銅像が現存)、両国の交流の歴史は古い。

現代においても、昨年の横浜・マニラ姉妹都市提携50周年、今年は日比国交正常化60周年や、前号のベトナム編でも触れたY-PORT事業における横浜の提携都市第1として、同国第2の都市セブ市が選定されるなど、神奈川県から見た同国との関係はベトナムに優るとも劣らない。

Y-PORT事業:2013年に横浜市が開始した国際技術協力事業、新興国・途上国の人口増加や経済発展に伴って直面する都市インフラなどの課題解決の為の協力事業。日本政府、JICAADBなどがバックアップしている。これまでに、セブ市、ダナン市、バンコク市との提携の覚書を締結している。

2.フィリピン主要経済指標

同国の政治、歴史、宗教、文化などについては外務省HP(国・地域別一般情報)を参照頂くとして、ここでは本特集の趣旨でもある同国の市場性について見てみたい。

【表-1

 

2010

2011

2012

2013

2014

直近4年間

伸び率(%

口(百万人)

93.0

94.5

96.0

97.5

99.1

7

生産年齢人口比

15-64歳・%

62

63

62

62

62

  -

GDP10億ドル)

199

224

250

272

284

43

GDP/1(ドル)

2,135

2,358

2,587

2,765

2,843

33

GNI/(ドル)

2,740

2,620

2,960

3,270

3,440

26

日本の輸出(億円

9,489

8,940

9,457

 9,444

10,460

10

日本のFDI100万ドル)

514

 1,019

731

1,242

478

142

FDI(対外直接投資)統計の基準変更により2013年以前との連続性は無い。

 従って、直近4年間伸び率欄は直近3年間の伸び率である。 

※出典:世界銀行World Development Indicators、財務省貿易統計、JETRO

経済成長に不可欠な人口については、フィリピン政府の発表によれば、2014年には1億人を突破し、インドネシアの約2.5億人に次ぐ域内第2位の人口大国である。

特に生産年齢人口比率が62%と高いだけでなく、15歳未満人口が32%と極めて高く、よって全人口の平均年齢が23歳という、いわゆる人口ボーナスがかなりの期間に亘り続く圧倒的に若い国である。

 3.一人当たりGNI>一人当たりGDP

1人当たりGNIではまだ低位中所得国ではあるが、特徴的なことは一人当たりGNIが一人当たりGDPを大きく上回るという、ASEANの中では稀有な存在である。

全人口の1割、約1千万人が外国で働いており、彼らのもたらすフィリピン国内への送金額がGDP1割に及び、GDPの約70%を占める個人消費を押し上げるのに大きく貢献していると言われる。

この外国での就労を可能にしている要素の一つが、国民の大半が英語を話すという点であり、外資誘致に関わる優位性として真先に挙げられるのがこの言葉の問題である。

従来の船員、お手伝いさん主体から、近年は看護師、IT関連技師など職種も広がってきており、最近は外国での就労数の伸びが鈍化して国内回帰の傾向が見られるものの、フィリピン経済にとっては、長年に亘り貿易赤字を埋めて経常黒字を維持してきたという点からも、引き続き虎の子的な位置を占めている。

ただし、日米のような先進国でのGNIGDPは、外国への直接投資の結果として得られるものであるのと比較すると、フィリピンの場合は、自国民の他国のGDPへの貢献の見返りとして得ているところが興味深い。もともと国内に人口増を吸収するだけの雇用機会が不充分との背景があったわけだが、今後の経済成長を展望する場合、それを支える貴重な労働力を国内に呼び戻す、ないしは自然に国内外のバランスがとれるような方向性が出てくるのではないかと思う。

いずれにせよ、少子高齢化の日本から見ると誠に羨ましい限りである。 

4.フィリピンの産業構造

一方、前項のGNIGDPとも関連してくるが、フィリピン経済における産業構造の対GDP比率を見ると、鉱工業産業が30%台前半で周辺の中所得国群であるマレーシア、インドネシア、タイの40%台前半と比較しても10%程度低い。

逆にサービス産業においては50%台後半と、これら3国を10%前後上回っており、域内先進国のシンガポールの約75%に次ぐレベルである。とはいえ、人口1億人の経済が中所得国から何れは高所得国へジャンプアップしていくには、鉱工業産業のウエートを高め、特に国内製造業の強化・拡大が喫緊の課題ではないかと思われる。

事実、同国経済を支える主な財閥のそれぞれのコアとなる業種をみても、不動産、流通、金融、通信、電力などサービス産業のウエートが高く、自動車、電気機械、石油化学、鉄鋼といった重厚な製造業の存在感が希薄である。 将来有望な国内市場及びAEC域内市場への多種多様な製品の供給力の育成・増強は待ったなしの状況と思う。そして、ここに日本からの投資・技術移転を熱望する背景があり、まさに両国のWIN-WIN関係が発展する素地があると判断される。(続く)

                  (文責:今井周一 2016315日)

◆お知らせ◆

横浜マニラ姉妹都市提携50周年記念事業として、「貿易都市マニラの栄光・考古学が語る太平洋航路の成立と発展」展示会がフィリピン国立博物館共催で、横浜ユーラシア文化館において、来月43日まで開催中。(みなとみらい線・日本大通り駅隣接)

 
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