昨年来ASEAN各国からAEC設立を見据えた日本からの投資を促進する為の多くのミッションが派遣され、各国それぞれの投資優遇制度や投資誘致関心分野などに関する説明会が都内大手ホテルの500~1000人規模の会議場などで行われたが、新年においても引き続き投資誘致合戦が続くと思われる。本号以降に於いては、そのような各国ごとの投資誘致計画につき紹介したいと思う。
先ずは、黒岩知事が選んだ昨年の漢字「越」にその思いを込めたとされるほど神奈川県とは交流の深いベトナムを取り上げる
1.ベトナムの市場としての成長性
ベトナムの政治・経済・文化などに関する基本的な情報については外務省HP(国・地域別一般情報)を参照頂くとして、ここでは本特集の趣旨でもある同国の市場性について考えてみたい。
ベトナムの主要経済指標 【表-1】
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2010年
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2011年
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2012年
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2013年
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2014年
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直近4年間
伸び率(%)
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人口(百万人)
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86.9
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87.8
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88.7
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89.7
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90.7
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4
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生産年齢人口比率
(15-64歳・%)
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70
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70
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70
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70
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70
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-
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GDP(10億ドル)
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115
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135
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155
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171
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186
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62
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GNI/1人(ドル)
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1,270
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1,390
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1,560
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1,740
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1,890
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49
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日本の輸出(億円)
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7,155
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7,637
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8,573
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10,294
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12,527
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75
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日本の直接投資
(100万ドル)
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748
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1,859
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2,570
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3,266
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※1,348
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337
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※直接投資(FDI)統計の基準変更により2013年以前との連続性は無い。
従って、直近4年間伸び率欄は直近3年間の伸び率である。
※出典:世界銀行World Development Indicators、財務省貿易統計、JETRO
経済成長に欠かせない人口も遠くない将来に1億人を突破するであろうが、特に生産年齢人口比率が70%と正に若さに溢れる国の一つである。
1人当たりGNIではまだ低位中所得国ではあるが、GDP伸び率とも相俟って近年の経済成長はASEAN後発メンバーCLMVの中では飛びぬけて目覚ましいものがある。
従ってというべきか、日本からの輸出や直接投資(FDI)の急速な伸びは、如何にベトナムに熱い視線が送られているかを物語っている。
無論、それと表裏一体をなすものとして、2008年両国政府間で締結された日越EPA(経済連携協定)ほか、日本政府による2011年以降の年間2000億円以上のODA(政府開発援助)供与が呼び水になっていることも間違いないところであろう。
2.神奈川県とベトナムとの関係
神奈川県とベトナムとの関係は、1994年以来の川崎港とベトナム中部にあるダナン港との港湾業務や技術指導などに関わる協力・提携関係が発展し、2004年に川崎市・ダナ、ン市間における上下水道事業などの環境分野・港湾・産業分野での人材交流・技術交流・情報交流などの友好協力関係の深化を目指した覚書の締結が先ず挙げられる。
その後、2013年に横浜市が、新興国・途上国の人口増加や経済発展に伴って直面する都市インフラなどの課題解決の為に国際技術協力事業(Y-PORT事業)を立ち上げたが、その協力事業のフィリピン・セブ市に次ぐ2例目として、環境都市を目指すダナン市との両都市間の覚書を締結するに至った。
更に昨2015年、神奈川県を中心に官民挙げての事業体が、ベトナムの首都ハノイ近郊の第2タンロン工業団地内にレンタル工場「神奈川インダストリアルパーク」を設置し、県内中小企業の海外生産拠点の確保など、ベトナム進出に関わるハード・ソフト両面からの支援体制を敷き運営を開始している。
(問い合わせ窓口:神奈川県産業振興センター国際課 TEL 045-633-5126)
以上のような経済的な結びつきの深まりに呼応するように、昨年9月18~20日の3日間に亘り、「ベトナム・フェスタ・イン・神奈川」が駐日ベトナム大使館と神奈川県の共催で横浜のみなとみらい地区を中心に開催された。
両地域の貿易・投資のセミナー、ベトナム企業との商談会といった経済プログラムから、ベトナムの伝統民族芸能、人気アーティストによるライブ、ランタン祭り、民族衣装アオザイの紹介からベトナム料理、工芸、芸術など幅広くベトナム文化に触れる文化交流プログラム、及び民間企業・地域連携プログラムを軸にしたイベントであった。
黒岩知事と折から来日中のベトナム最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長の両TOPがオープニングセレモニーに出席するなど、神奈川県とベトナムの広範な協力関係の進展に大きく貢献することが期待される。
3.ダナン市の魅力
冒頭で述べたように日本からの投資の勧誘ミッションが相次いでいるが、それぞれの国を代表するミッションが大半を占める中で、一自治体独自のミッション派遣もあり、ある意味では当該国内での投資誘致合戦に勝ち抜こうとの極めて積極的な意志を感じ取ることが出来る。
昨年11月、ダナン市長が率いるダナン投資誘致ミッションが来日し、東京のベトナム大使館でベトナムへの投資促進を目的としたプレゼンテーションが行われた。
ダナン市は、ベトナム北部の首都ハノイと南部の商業都市ホーチミンに並ぶ中部最大の都市で、5つある中央直轄市の1つ、人口1百万人の港湾都市である。
人口や経済規模においては、ホーチミン・ハノイにはるかに及ばないが、ダナン市の強みについては見るべきものが多い。
ミッションのプレゼンテーションの中から、ダナン市が訴求する強み・セールスポイントの主なものは以下の通りである。
a.
戦略的な位置:日本の援助により完成したベトナムーラオスータイーミヤンマとインドシナ半島を横断する東西経済回廊の南シナ海に面した玄関口であり、物流の起点となる戦略的位置を占めている。
b.
現代的なインフラ:ダナン港、成田からのベトナム航空直行便で約6時間のダナン国際空港、高速道路を含む都市交通インフラ、6工業団地と開発中のハイテクパークなどが整備されている。
c.
質の高い人材:ベトナムはもともと教育レベルが高いが、若くて豊富な労働力、横浜国大ほか海外の大学との協力プログラムもあり、質の高い人材の供給が期待される。
d.
理想的な生活環境:周辺に4つのユネスコ世界自然遺産を持つ美しい自然環境、魅力的な文化と伝統、多様な料理、人々のもてなしなど屈指のリゾートを成す一方、住環境、スポーツ、エンターテインメント施設なども整備されている。
e.
恵まれた投資環境:電子政府、オンライン・ワンストップの投資手続、電力・水道な
ど必要なサービスが用意されている。
その他、ベトナムの5直轄市・58省の都市競争力ランキングやIT開発・適用能力で国内NO.1など、ダナン市の優位性は魅力的である。
(問い合わせ窓口:ダナン駐日代表部 東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビル4F
TEL 03-3580-8512)
4.ダナンハイテクパークの投資優遇分野
ダナン市が期待する投資誘致分野は、ハイテク産業・その裾野産業から、観光・不動産・金融・情報・物流などのサービス産業まで多岐に亘るが、特に注力しているのがダナンハイテクパークへの誘致であり、その中でも以下の分野に関しては投資サポートから土地リース・法人税などで手厚い優遇措置が用意されている。
医療・水産及び農業向けバイオテクノロジー、機械電子・光電子工学などのマイクロエレクトロニクス、精密機械の自動化、ソフトウエアー開発・通信及びIT、新素材・ナノテクノロジー・新エネルギー、環境技術・石油化学などの特殊テクノロジー。
(問い合わせ窓口:ダナン市投資促進センター・ジャパンデスク。
URL:www.investdanang.
gov.vn e-mail:
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)
以上ASEANの中でも成長著しいベトナム、ここでは触れなかったがTPPの加盟国として日本との関係が更に強まると考えられるベトナム、そしてそのベトナムと神奈川県との経済のみならず文化交流を含む広範な関係、特にその中でもダナン市にフォーカスして参考情報を紹介した。
海外の製造拠点の確保という観点からは、神奈川県との関係の深いハノイ近郊の「神奈川インダストリアルパーク」とか、「ダナンハイテクパーク」は有力な選択肢の一つと言える。
更に、これも日本の支援によるが南部のホーチミンープノンペンーバンコクからミヤンマのダウエーを繋ぐ南部経済回廊にも絡むことから、インドシナ半島・大メコン経済圏における物流面でのベトナムの重要性は注目すべきと考える。
本号においては、ベトナムの魅力につきお伝えしたが、それ以外の各国ともそれぞれ投資誘致の為の様々な施策を講じている筈であり、先ずはそれぞれの投資優遇制度などの情報収集と、可能な限り現地を視察し、現地の生の情報に接したうえで各企業の海外戦略との整合性を慎重に見極めることが肝要と思う。
この意味においては、日本アセアンセンター、JETROなどの各種機関による現地事情調査視察団の派遣には、積極的に参加されることをお薦めしたい。
要は、“Seeing is believing”、“百聞は一見に如かず”である。 (以下、次号)
(文責:今井周一 2016年1月31日)
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