広域産学連携・大学の"知"を活かす(第2回)-次世代センシング技術
2010/05/25 火曜日 16:49:53 JST

22の技術分野で情報提供
センサを製品化まで支援


横浜市技術リエゾンプロデューサーの芳賀敬二氏横浜企業経営支援財団(IDEC)の全国産学連携広域ネットワーク、第2回は電子・情報・通信の分野で急成長する次世代センシングの産学連携支援。先端技術の研究成果を大学と企業がどう連携し、どう製品化を目指すのか、横浜市技術リエゾンプロデューサーの芳賀敬二氏に聞いた。

■魅力のニッチマーケット

ひとくちにセンサといってもその用途はさまざま。同じ温度の測定でも測定対象が人の体温と溶鉱炉とでは温度センサに求められる機能や環境条件が大きく異なり、それぞれの測定対象に最適な技術を利用するため、まったく違う機器として作られている。また、最近では人と機器とが「感覚」を共有するための直感的ユーザインターフェースの研究開発が盛んで、視、触、聴、嗅、味の五感センサが日々進化している。「個性的なセンサを使ったセンシングシステムは、高い専門性が要求されると共にニッチマーケットで勝負することが多く、中小企業の新製品としては大きな魅力がある」と芳賀氏は語る。その一方で、製品開発には常に先端の技術情報を必要とするのが課題である。センサの研究は物理・化学・生物の基礎原理を応用するため、日米欧など世界中の大学と企業での研究が盛んで、研究成果を利用した新製品が企業や大学発ベンチャーなどで開発されている。大学や企業の研究開発では、磁気から光、放射線、化学、バイオまでのより専門的なセンサの研究が積み重ねられ、センサ、情報処理、通信機能を複合して小型化したセンシングシステムも多数製品化されている。

そこで、全国産学連携広域ネットワークでは、平成22年度のオープンイノベーションテーマの1つとして「次世代センシング」をとりあげ、大学と企業をマッチングすることで、新たなセンサ技術の開発支援を狙う。市内には電子、電気、機械を得意分野とする中小企業が多く、大学や大手企業の研究開発部門に製品を納める企業も目立つ。同氏は「センサはこれから最も伸びやすい技術分野」と指摘する。ただ、個性的な技術なのでそれぞれの情報が広く伝わりにくいのが難点だ。この障害を取り除くため、産学交流サロンで注目すべきさまざまな大学の研究シーズを発表する。技術のキーワードは次世代センシングより広範囲な電子・情報・通信の22分野を予定している。ヒューマンセンシング、セキュリティ分野センシング、MEMSセンサ、バイオメトリクス技術、センサネットーワーク、生体情報計測、テレハプト、RFID、GPS、LED応用、感性センシング、インタフェース、超音波応用、光ファイバー応用、画像処理、3D、メカトロニクス、マニピュレータ、無線通信、レーザー計測応用、タッチパネル、電子ペーパー……などだ。

■8人のLPがマッチング

産学交流サロンは、それぞれのテーマに基づき2か月に1回、年間延べ20人の大学研究者が研究内容の発表を予定している。参加企業はこのサロンを通して最新の技術情報を知ることができる。ただこれはまだマッチングの第一歩に過ぎない。じつは、サロンでは参加企業にアンケートを取り、興味を持った大学に連携を求めるかどうかを聞く。いうまでもなく最新のセンサ技術は企業秘密に属する。このため会場での質問は限られ、大学側とのコンタクトとも名刺交換で終わりがちだ。これでは企業が一から大学の研究室と関係を結んでいかなければならならず、そこから企業が求める研究に行きつくまでに時間がかかる。そこで、アンケートの要望に基づき8人のリエゾンプロデューサーが間に入り、企業側のニーズを引き出すとともに適切と思われる大学の研究を選び、それを紹介して技術が確立するまで黒子役として支援する。「マッチングにとどまらず製品化まで支援したい」(同)。
一方、大学側に対しても確立した技術があればそれを製品化できる企業を探し、また大学からシーズを引き出し企業のニーズに合わせるマッチングも行う。

■第1回のサロンでは磁気、光、におい、のセンシング
5月28日に産学交流サロンとして開かれる『次世代センシング技術シリーズ』の第1回は次の3テーマを予定している。内容は次の通り。
◆『現場で役立つ磁気応用』~ワイヤレスで検出・検査、信号・電力のやりとりもする磁気の魅力と実践例~。講師は横浜国立大学大学院工学研究院教授 竹村泰司氏
竹村先生の専門は、半導体薄膜、物性、ナノテクノロジー、セキュリティ、バイオ医療などであり、各分野の研究の中から企業に移転可能な具体的テーマを紹介する。
<講演概要>
① 回転・位置センサ(高温低温・多湿などの耐環境性、無電源が特徴)、② 非接触・非破壊検査(最近の共同研究から)、③ ワイヤレス伝送、磁性ナノ粒子、セキュリティ、④ バイオ医療など磁気応用のトレンド。
◆『光学薄膜を中心とした光学技術の研究開発』~薄膜及び光増幅材料の高機能・高品質化、レーザープロセッシング、感覚量の定量化~。東海大学工学部光・画像工学科准教授 室谷裕志氏
室谷先生の専門は、光学薄膜、光学材料、光物性、感性工学であり、各分野の研究の中から企業に移転可能な次の6テーマを紹介する。
<講演概要>
① デジタル1眼レフカメラに生きる低光散乱成膜技術の研究、② 光学部品のくもり・白濁を定量化する研究、③ 薄い基板への成膜を目指す薄膜の応力制御の研究、④ マスクレス・低コストでのマイクロレンズ作製の研究、⑤ 吸収材を用いない透明プラスチックと透明ガラスのレーザー溶着の研究、⑥ 果実の熟度を外観だけで判断する研究。
◆『匂いセンシングシステム、嗅覚ディスプレイの研究開発』東京工業大学大学院理工学研究科准教授 中本高道氏 
中本先生の専門分野は、計測工学、中でも生物の鼻の嗅覚機構をまねた匂いセンシングシステムであり、多くの研究の中から企業に移転可能な次の具体的テーマを紹介する。
<講演概要>
① 水晶振動子センサの高感度化、② 口臭センサ、③ 悪臭センシングネットワーク、④ 質量分析器を用いた混合臭濃度定量方法、⑤ 香りの要素臭の探索方法、⑤ 嗅覚ディスプレイの仕組み、⑦ 嗅覚ディスプレイの応用。

(財)横浜企業経営支援財団:http://joint.idec.or.jp