ユーザ中心設計のすすめ(第25回)― ピクトグラムの役割とは |
2009/02/27 金曜日 17:40:12 JST | |
==================================================================== 本編: どっちを押せばいいの? ~分かりにくい、クルマのくもり取りスイッチ~ ==================================================================== いきなりですが、普段クルマに乗っている方に質問です。 「クルマを運転していたら、急に雨が降ってきました。みるみるうちにフロントガラスがくもり、このままだと前が見えなくなってしまいます。さあ、あなたは(1)と(2)のどちらのボタンを押しますか?」 SUZUKIスイフトのエアコンパネル 正解は(1)の「デフロスター」ですね。どうでしょうか?皆さんは運転中、とっさにどちらがフロントガラスのくもり取りなのか判断できますか? 私はSUZUKIスイフトスポーツに乗っていますが、ちょっと前まで(2)を押していたんです。どちらも同じような形のピクトグラム(※)だし、(2)の方が運転席に近いのでついつい手がのびてしまいます。でもくもりは全然取れない。そこではじめて間違えた!と気づくわけです。ちなみに(2)は、リアガラスのくもり取り(デフォッガー)なんですよね。 こういう体験から、他の車はどの様な表記になっているのだろう?と疑問がわいてきたので、少し調べてみました。 NISSANフーガはピクトグラムの横に日本語で「前」「後」の文字表記があります。これならすぐに分かりますね。それに、ボタンの配置も実際のガラスの位置と対応付けがされています。 一方、TOYOTAラウムではカタカナですが「フロント」「リア」との表記があり、いざと言う時に必要なデフロスターの方に「くもり取り」と機能説明までされていました。 各社最近のクルマにはこういった工夫をしているものが多いようです。くもり取りのボタンは使用頻度は決して高くはありませんが、ガラスがくもった場合急な判断で押さなければならない重要なボタンです。 はたして、どういう表記がユーザーにとって一番分かりやすいのでしょうか? ※)ピクトグラム・・・・・対象の模写や概念から図的抽象化によってつくられた「絵文字」、「絵ことば」のこと。 (平凡社 現代デザイン事典より抜粋) 補足 読者の方から、デフロスタとデフォッガのピクトが似ているのが問題なのでは? とご意見いただきました。 実は、どちらのピクトも国内規格(JIS D 0032:2006)、国際規格(ISO 2575) にて規格化されている為、容易には変更できないというのが現状です。その為、各車写真のように日本語を表記したりして少しでも分かるように対処しているのだと思います。 ※本編部分は使いやすさ研究所<http://usability.novas.co.jp/>の使いやすさ日記(No.469 担当:山倉)より、一部加筆修正して転載しています。 ===================================== 解説: 「ピクトグラムの役割とは」 ===================================== 今回はピクトグラムのお話です。 本編の問題点の要因は明確ですね。あまりにも図として似ているために判別しづらいのです。じっくり考えてみても「えっとどっちだっけなあ?」といった感じです。個人的には、フロントガラスは「ワイパーの軌跡」と覚えていますが、実際にはほとんどの車にリアガラスにもワイパーがついています。またリアガラスはワイパーが1本なので軌跡的にはリアガラスのほうがこの図に近いという捉え方もできます。紛らわしいことこの上ないですね。本来であればピクトグラム作成時のポイントの一つである「区別のしやすさ」が不足しているといえます。デザイン案を検討している時点で、客観的な評価がしっかりなされたのか疑問が残ります。 本編のNISSAN フーガの「前」「後」やTOYOTA ラウムの「フロント」のように文字による補足で大半の人は判別可能となりますが、元来、ピクトグラムは文字に頼らず意味を伝えるようにデザインすべきです。この事例は対症療法と言わざるを得ません。言語の制約をうけることなく、すべての国の人に意味を伝えることがピクトグラムの機能ですから。 それでは他のピクトグラムをはどうでしょうか。みなさんは、空港や駅、街中などでよく目にしていると思います。また家電製品やWEBサイトでも多く見受けられます。 上図は交通エコロジー・モビリティ財団がバリアフリー推進事業として作成したピクトグラムです。そこで作成された標準案内用図記号125項目のうち、110項目がJIS規格化となりました。それにより、同じ図形が一般的に使われるようになりますので、私たちにとってはそのピクトグラムの意味を覚えやすいというメリットが生まれます。 実際は上記のように規格化されたものばかりではなく、デザイナーが自由にデザインしたピクトグラムも多くみられます。デパートや飲食店などのトイレマークがそうですね。デザイナーがお店のイメージにあったデザインを施すのですが、それが度を過ぎると私たちにとって非常に判りにくいものになってしまいます。 そこで、そうならないよう企業がユーザのために尽力した画期的なプロジェクトを紹介します。それは「CRXプロジェクト」と呼ばれるものです。これには「企業の壁を超えた、ユーザの立場からの使いやすさの挑戦」というサブタイトルがついています。 <CRXプロジェクトサイトより引用-ここから> CRXプロジェクトは、「オフィス機器も、自動車やオーディオ製品のように、メーカーが異なっても誰もが同じように操作できるべきだ」との共通の認識をもったキヤノン、リコー、富士ゼロックス、セイコーエプソンのオフィス機器メーカー4社が、企業の壁を越えて、ユーザーの立場に立った使い易さを探求し、互いにユーザーインターフェースデザインの整合化を推進しようという活動です。その活動の主旨をCRX(Collaboration for Research and Exchange)の頭文字にまとめました。 <引用ここまで> このプロジェクトではユーザーインターフェースガイドラインを策定しているのですが、その中に複合機で使用するピクトグラムについての取り決めがあります。オフィスの中で、メーカーの異なる複数の複合機を使用している場合、どれを使っても判りやすいよう、また機種(メーカー)を変更してもすぐに判るようにピクトグラムを統一しているのです。 これは本当にすばらしいことです。通常は、企業は競争原理が働いて、独自にピクトグラムをデザインして「我こそがデファクトだ!」と主張を始めてしまうところですが、CRXプロジェクトは企業間が連携しユーザのメリットを真剣に考えた賞賛に値する活動です。みなさんのオフィスにメーカーの違う複合機があれば、チェックしてみてください。古い機種でなければ、各種操作ボタンのピクトグラムが同じデザインになっているのを確認できると思います。 さて皆さんの会社の製品やサイトで使われているピクトグラムは判りやすいですか? 以下は引用および参考サイトです。 -------------------------------------------------- <CRXプロジェクト> トップページ http://www.crx.gr.jp/index.html ユーザーインターフェースガイドライン 図記号のページ http://www.crx.gr.jp/guide/thumbnail06.html <交通エコロジー・モビリティ財団> トップページ http://www.ecomo.or.jp/index.html ピクトグラムのダウンロードページ http://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/picto_top.html <共用品推進機構> トップページ http://www.kyoyohin.org/index.php ピクトグラムのダウンロードページ http://www.kyoyohin.org/06_accessible/060100_jis.php *本コラムに関するご質問、ご感想などは、お気軽に http://www.ueyesdesign.co.jp/contact/index.html の「業務全般のお問い合せ窓口」よりご連絡ください。 みなさまの声をお待ちしております。 ===================================== 【お知らせ】 1. 組込みエンジニア様向けに、ユーザ中心設計をテーマとしたセミナーサービスを実施しております。 <ご案内サイト> http://ueyesdesign.co.jp/ueyes-lc/course.html 2. iPhone 3Gのユーザビリティテストレポートを発売中です! <ご案内サイト> http://ueyesdesign.co.jp ===================================== 過去記事一覧(第1回~第24回) 筆者プロフィール 鞆 幾也 (TOMO, Ikuya) 1988年 金沢美術工芸大学工業デザイン科卒業。 1990年 株式会社ノーバス設立に参画。 2003年 株式会社ジー・テック・ノーバス設立。代表取締役に就任。 (2005年10月株式会社U'eyes Designに移管) 2005年10月から2007年9月まで株式会社U'eyes Designの上級執行役員に就任。 現在はU'eyes DesignのUCD上級コンサルタントとシニアアドバイザーを兼務。 医療機器のプロダクトデザインを行いつつ1996年頃よりユーザインタフェースデザインの業務をスタート。 特に1998年頃から携帯電話の操作仕様設計から画面のグラフィックデザインまで数多くの端末の開発支援をおこなう。 UCD開発支援の実績としては鉄道自動券売機(オムロン製)がある。 株式会社 U'eyes Design:http://ueyesdesign.co.jp |