ユーザ中心設計のすすめ(第21回)― 用紙が落ちる!複合機 |
2009/01/04 日曜日 13:33:14 JST | |
[ごあいさつ] みなさま、新年あけましておめでとうございます。 旧年中は「ユーザ中心設計のすすめ」をご愛読いただきありがとうございました。 2009年はなかなか明るい見通しの立ちにくい1年となりそうですが、こんな時代こそ「ユーザ中心設計」の良さを広め、開発における無駄を省き、効率的で効果的なご支援ができればと存じます。 本年も引き続きよろしくお願いいたします。 ===================================== 本編 ===================================== 最近は、コピーを取ることよりプリンターとして使うことが多くなった気がするオフィスの複合機ですが、そうは言ってもそれなりにコピーを取ることはあります。 そんな時に困った現象を何度か体験しました。 コピーを済ませて、原稿カバーを開けたその時でした。 コピー機の裏に原紙が落ちてしまったのです。 ヒンジ部が広く紙が裏に落ちてしまう このコピー機は、原稿カバーを開けるとヒンジの間に広い隙間が空いてしまい、原稿カバーを開けた時の風圧でその隙間から紙が落ちてしまうのです。しかも、複合機の周りにはキャビネットやコピー用紙などが置いてあり、容易に複合機を動かせる環境ではありません。一度コピー機の裏に落ちた原紙を拾うのはとても大変な作業です。 当然、ゆっくりと原稿カバーを開けばこのような現象は起きませんが、急いでいる時に勢いよく原稿カバーを開けるとその頻度も高くなります。 会社には複数の複合機があるので他はどうなっているかを調べてみると、 ヒンジ部が狭く紙が裏に落ちにくい 隙間の狭い複合機もありました。写真Bはヒンジ部の隙間が185mmでB5用紙の短手より(182mm)少し大きいだけです。 これなら、B5用紙でもコピー機の裏に用紙が落ちるなどということはないでしょう。 機構上の都合やメンテナンス上の都合など何かヒンジ部を広くする理由があるかも知れませんが、実際に他の社員も同じ現象を体験していることを考えると、もうすこしユーザーの利用状況に配慮した設計をしてもよいのではないかと思います。 同型の複合機を使用している他のオフィスでもきっと同じ現象が起きているのではないでしょうか。 ※本編部分は使いやすさ研究所<http://usability.novas.co.jp/>の使いやすさ日記(No.372 担当:庭野)より、一部加筆修正して転載しています。 ===================================== 解説 ===================================== 「ユーザ中心設計で、開発の効率化と成果向上を実現する」 複合機によっては、同じような体験をしている方も多いのではないでしょうか?当然私も同じものを利用しているので、奥に紙が落ちてしまったことが何度かあり、そのたびにいらいらして余計な時間を費やした記憶があります。個人的にはヒンジの構造上隙間が大きくなってしまうなら、奥にちょっとしたついたてを立ててくれれば良いと思うので解決すること自体はそれほど難しくないでしょう。要はこの問題に気付いて、重要な問題だと思えるかどうかです。 実際の現場では、フラットベッド上でコピーを取る際に、そこそこの確率でこの事態が起こっていると予想できます。しかしこうした問題に気付くには、通り一辺倒なアンケート調査やインタビューではなかなか抽出することが難しいものです。 ではどうすれば良いかと言うと、現場を観察することが一番効果的です。長時間の観察が必要になる場合は、ビデオによる記録と観察を行なう手法を用います。、協力者を探してビデオを取り付けさせてもらい、1日や1週間など行動の記録を取らせてもらうのです。こうすることで一定量の情報をまとめて後で観察して分析することが可能になります。この方法は協力者さえ取り付けることができれば、様々なシステムや環境で効果的な観察が行えることになります。 観察や分析に際しては、ユーザに対してのインタビューなども併せて実施することでより精度を上げることができます。多少専門的なノウハウやスキルが必要ですし、時間とコストが多少必要にもなります。しかしこれにより得られる情報は膨大なものになり、一度実施するとしばらくの間非常に有用なデータベースとして使っていくことも可能になります。机上で1年検討するより一度実際の現場を見る方が明らかに効果的です。目的にもよりますが、何百・何千サンプルという大規模なアンケート調査よりも、数事例を観察することの方が圧倒的に得るものが多い場合もあります。 利用状況の調査に限らずですが、「ユーザ中心設計」は、開発の効率化と成果の向上を両立できる手法です。世界的な経済不況の中でこそ、ユーザ視点での開発の効果を感じていただけるものかもしれません。今回の事例としてはハードの設計に関するものでしたが、あらゆる設計に関わることとして是非参考にしていただけると幸いです。 *本コラムに関するご質問、ご感想などは、お気軽に http://www.ueyesdesign.co.jp/contact/index.html の「業務全般のお問い合せ窓口」よりご連絡ください。 みなさまの声をお待ちしております。 ===================================== 【お知らせ】 1. 組込みエンジニア様向けに、ユーザ中心設計をテーマとしたセミナーサービスを実施しております。 <ご案内サイト> http://ueyesdesign.co.jp/ueyes-lc/course.html 2. iPhone 3Gのユーザビリティテストレポートを発売中です! <ご案内サイト> http://ueyesdesign.co.jp ================================= 過去記事一覧(第1回~第20回) 筆者プロフィール 龍淵 信 1963年生、1986年法政大学工学部建築学科卒業後、工業デザインを勉強。 1992年株式会社ノーバスに入社。2001年4月にグループ会社の株式会社ユー・アイズ・ノーバスの設立に参画。 2005年10月グループ会社である株式会社U'eyes Design(ユー・アイズ・デザイン)の執行役員を経て、2007年10月よりノーバスの経営戦略室とU'eyes Designのシニアアドバイザーを兼務。現在に至る。 携帯電話などのコンシューマ製品、公共機器、OA機器のユーザインタフェース開発およびユーザ評価・調査に数多くかかわり、特に自動車用システムは、ここ10年ほどで150ほどのプロジェクト実績を持つ。 株式会社 U'eyes Design:http://ueyesdesign.co.jp |