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AEC(ASEAN経済共同体)への戦略的アプローチ!(その9・完) プリント

1.本特集はAECへの戦略的アプローチというテーマで、経済成長著しい伸び盛りのこの巨大市場へ日本の中小・ベンチャー企業が積極的に参入していくべきであるとの観点から考察を進めてきた。

日本の誇る製造技術や先端技術をはじめとして、クールJAPANに代表されるソフトパワーをこの地域とのWIN-WIN関係の構築と共生に生かすという視点から、それらが最も歓迎されると判断されるのがこの地域、特に人口減少の我が国からみれば、眩いばかりの人口ボーナスを享受するベトナム・フィリピン・インドネシア・ミヤンマーのVPIM4ケ国に焦点を当てて分析を試みた。

域内先進国であるシンガポールとブルネイ、及び人口小国であるラオスとカンボディアについては、別の視点からのアプローチが必要でもあり、本特集においてはあえて触れなかった。

 

VPIM4ケ国

これらVPIM4ケ国は、恐らく数年から10年以内には現在の下位中所得国から順次抜け出して高位中所得国グループへ仲間入りすると思われるが、問題はその先の高所得国入りの前に立ちはだかる、いわゆる中所得国の罠と称される壁をどう乗り越えるのか、ということを予め視野に入れておくことも重要である。

本特集その2ではこの中所得国の罠について触れたが、ここを比較的短期にクリアーして高所得国グループに入ったシンガポール・香港・韓国・台湾のいわゆるASIA NIES 4ケ国・地域がある一方で、現在高位中所得国グループのマレーシア・タイがこの壁をクリアーできるか、或はいつなのかが注目されて久しいのも事実である。

 

因みに、世界銀行が1人当たりGNIをベースに世界215ケ国を高所得国・高位中所得国・低位中所得国・低所得国の4グループに分類しているが、2013年基準値による分類は以下の表のとおりである。

先ず気が付くことは、ASEANのオリジナルメンバー2ケ国が未だに低位中所得国に甘んじていることである。

世界の所得階層別グループ(一人当たりGNI 2013年ベース) 【表-1

所得別グループ

国数

主 要 国

AECメンバー

高所得国

75

G7・ロシア・北欧諸国・ユーロ圏諸国・オーストラリア・ニュージランド・香港・韓国・台湾・チリ・スイスなど。

シンガポール・ブルネイ

高位中所得国

55

メキシコ・中国・トルコ・ブラジル・アルゼンチン・ペルーイラン・イラク・南アなど。

マレーシア・タイ

低位中所得国

50

インド・モンゴル・ウクライナ・ウズベキスタン・エジプト・ナイジェリアなど。

インドネシア・フィリピン・ベトナム・ラオス・ミヤンマー

低所得国

35

アフガニスタン・バングラデシュ・エチオピア・ケニヤ・マダガスカルなど。

カンボジア 

      
        ※
GNI
Gross National Income):国民総所得。                                               
        ※各グループの基準値:高所得国:
12,746
ドル超、
          高位中所得国:
4,126
12,746ドル、
         
低位中所得国:1,0464,125ドル、
          低所得国:
1,045
ドル未満。                            
        ※出典:経産省・世界銀行
World
 Development Indicators
          ブルネイ
/
ミヤンマーは夫々2012/2014年値。 

3.低迷する高位中所得国、マレーシアとタイ

本特集その2でも述べたが、シンガポール・香港・韓国・台湾のいわゆるASIA NIES、1980年代から90年代にかけて急性長し、続々と高所得国へランク入りしたが、これら先発組との対比において、後続組のマレーシア・タイの成長の軌跡を一人当たりGDPを基に辿ってみたい。

なお、シンガポール・香港は人口規模が桁違いに小さいこともあり、ここでは人口規模が似通っているマレーシア(2013年人口29.6百万人)は台湾(同 23.3)、タイ(同68.2)は韓国(同 50.4)との比較が妥当と思われる。

  アジアの高位中所得国から高所得国へのGDP/1人の推移(USドル)【表-2

 

1985

1995

2005

2010

2015

マレーシア

2,124

4,612

5,599

8,920

9,500

台 湾

3,295

13,076

16,503

19,261

22,263

タ イ

775

2,846

2,905

5,062

5,742

韓 国

2,457

12,340

18,657

22,151

27,221

   ※出典:世界銀行・IMF GDP/1人、2015年値。(世界銀行の一人当たり所得ではGNIを使用するが、基準データの    統一性からここではGDPを使用する。国によってGDPGNIは上下するが、例外はあるもののほぼ同水準と考えら   れる。)  

注目すべきは1995年までの10年間で台湾・韓国は高所得国へジャンプアップしたが、GDP総額では両国とも5倍前後の伸びという脅威的な成長を記録している。更にその後もアジア通貨危機やリーマンショックなども乗りこえて、年率数パーセントの成長を遂げている。

一方、この間後発組のマレーシア・タイのGDP総額は24倍と、高い成長率とはいえ分母が小さく単純には比較できない。やはりマレーシアでは資源頼み、タイは自動車産業においてはアジアのデトロイトと称せられたが、産業構造的にも 自動車産業頼みといった状況であった。

そこに1997年のアジア通貨危機が直撃したわけだが、1997年を挟んだ1995~2000年の5年間におけるGDPの伸び率は、マレーシアでは年率僅か1%強、タイに至っては年率5%のマイナス成長という、正に1990年代中盤までの高景気を吹き飛ばすほど、アジア通貨危機の爪痕は大きかったということである。

逆の見方からすれば、アジア通貨危機以前に高所得国入りを果たした韓国・台湾とは明暗を異にした背景として、両国に 見る工業化と製造業の基盤確立及び、韓国の場合はIMF管理下での事業の選択と集中及び輸出立国志向、台湾の場合はハイテク・EMS(電子機器類の受託製造サービス)重点志向という、明確な国家戦略が有ったということが言える。それに対して、マレーシア・タイにおいては、アジア通貨危機の影響を短期間でクリアーするほどの経済の基礎的な体力がついていなかったことが見て取れる。その後両国とも2010年にかけて成長力を取り戻したかに見えるがここ数年は再び成長鈍化に見舞われ、特にマレーシアは高所得国入りを目前にしながら足踏み状態が続いている。

この部分における詳細分析は別の機会に譲るとして、VPIM4ケ国の中長期的な成長に繋げるための経済政策の根幹においては、先ずは成長のキーとなる人材の育成・教育の高度化などへの惜しみない投資と併せて、マレーシア・タイ両国の産業構造の変遷についても充分な分析をしておくことが肝要と思う。

国際教育到達度評価学会(本部オランダ)が、昨年末に小学4年生と中学2年生が対象の国際学力テスト(算数・数学と理科)の2015年の結果を発表した。

4算数と中2数学では、1位~4位をASIA NIES4ケ国が独占(日本は5位)、小4と中2の理科ではASIA NIES3ケ国と日本がTOP5入りと、ASIA NIES恐るべしである。如何に若年層の教育に力を入れているかということであり、将来の高所得国入りを目指す各国にとっても極めて示唆的である。

4.おわりに

一昨年7月以来、「AECへの戦略的アプローチ!」とのテーマで少子高齢化が進む日本の対極にある、若くて将来性豊かな6.2億人の巨大市場にどう向き合うかにつき、様々な観点から分析と考察を試みてきた。

この1年余り、ある意味ではAECにとって良いところ取りの出来る恰好なモデルともなりうると考えていたEUが、想像すら出来なかった英国の離脱問題との激震に見舞われる一方、米国新大統領による反グローバリズムと自国最優先主義といった、AEC各国の結束に冷水を浴びせるかのごとく世界の貿易・投資秩序の大変動を予感させる出来事ほか様々な事象が発生した。

AEC自体も創設1周年を経過して、関税撤廃プログラムなど計画通り進んでいるものもあれば、特に域内における人の自由な往来にやや影を落としているものもあるが、EUを半面教師としながらもAEC独自の共同体への歩みは揺るぎないものと思う。

 

最後に、VPIM4ケ国の早期高位中所得国入りとマレーシア・タイの1年でも早い高所得国入りを切望して、そして日本がその為の主導的役割を担い、同時に日本の誇る物作り大国を支える中小・ベンチャー企業の進出先国の企業とが、WINWINの関係を構築して持続的な発展を遂げることを念願して本特集の締めとさせて頂きます。

1年半という長きにわたり、お付き合い頂き誠に有難うございました。(完)

           (文責:今井周一 平成2915日)

 

 
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