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AEC(ASEAN経済共同体)への戦略的アプローチ!(その6―下) プリント
2016/04/29 金曜日 13:07:41 JST
(前号では、フィリピン経済の現状を概観したが、本号では、5~10年先を見据えた経済政策について主なポイントを紹介したい。)
1.フィリピン政府の経済政策 
経済政策の大枠は、外資導入によるインフラと製造業の拡大と雇用の創出、及びそれらをバックアップする為の多くの経済特区の整備、ということが言える。
昨年9月~本年2月にかけて、日本からの投資誘致の為に開催されたフィリピン貿易産業省や投資委員会によるセミナーを通じて発表されたフィリピン政府の産業政策に関する主要なポイントは以下の通りであり、この分野への日本からの投資誘致には極めて熱いものがある。
①    マクロ経済指標:
・GDP成長率は2012~2015の間、6.8%⇒7.2%⇒6.1%⇒6.3%とASEAN6 では最も高い成長率を記録した。
・2014年の日比間の貿易総額約192億ドルは全体の15%を占め、フィリピンから見た貿易相手国としては日本が第1位である。
・同じくFDI(対外直接投資)においても、2014年にはフィリピン全体では1,362億ドルと2007年比160%と伸長し、1995年以来の国別累計では日本が全体の約30%と圧倒的な第1位である。
・GDP/1人も2020年の目標値を4,757ドルとしており(GNI/1人では5,000ドル超が推定される)、この時点では高位中所得国の仲間入りを果たしていると考えられる。  
②    2025年までの成長を牽引する戦略的分野として、製造業・アグリビジネス・サービス産業の3分野を指定し、夫々に短期・中期・長期の基本方針を設定したが、足元の短期の重点業種群は以下の通りである。
・製造業:自動車産業・宇宙関連部品産業・IT産業・アパレル・食品・化学品関連。
・アグリビジネス:ゴム・ココナッツ・マンゴ等フルーツ・コーヒー・パ―ム油。
・サービス産業:観光・建設・船舶修理・インフラ関連投資。

2.自動車産業の復活 CARSプログラム
かつて1970年代前半において、フィリピンは乗用車国産化計画を導入するなど、同国自動車産業は当時のASEAN域内では自動車先進国に位置づけられていた。しかしながら、その後の政情不安・経済の低迷とアジア通貨危機を受けて近年に至るまで長期低迷から抜け出せずにいた。その結果として2013年の国内販売台数では、21万台とタイ・インドネシア・マレーシアのそれぞれ16%・17%・32%へと落ち込み、更には後発のベトナムにも追い上げられるなど、殆どその存在感を失っていた。
2010年アキノ政権の発足以来、好調な経済と個人所得の増加を背景に、更なる経済成長の主力エンジンの役割を担う上記戦略分野の最重要施策として、2016年をCARS(Comprehensive Automotive Resurgence Strategy)プログラムの始動の年と宣言している。
自動車産業の復活により、その裾野産業の広がりと同時に中小企業の育成強化と雇用の拡大を狙い、併せて関連産業へのシナジー効果を誘引して製造業全体の基盤強化につなげるという極めて意欲的なものとして注目される。

CARSプログラムの主要なポイントは以下の通りである。
・市場環境:従来の国内市場志向から、AEC域内市場へ。
・AECの自動車販売台数(予測値・万台):2012年・330⇒2022年・500~600⇒2030年・1000~1200。  
・2013年ASEAN域内生産台数(実績値・万台):タイ・250、インドネシア・120、マレーシア・6、ベトナム・9、フィリピン・8。
・フィリピン販売台数(予測値・万台):2016年・35⇒2020年・50。
・フィリピンが大きく後れを取った状態から、外資誘致と政府税財政支援を総動員して復活を狙う。
・本年5月にも日本メーカー2社を含む3社を選定したうえで、各社に2022年までの累計生産台数として最低20万台、3社合計で60万台を義務付け、それに対して各種インセンティブを賦与する。
・国内では既にモータリゼーションの時代に入っており、このプログラムを核にして生産体制の拡充を図り、完成車輸入割合を引き下げつつ、車種によってはAEC域内への輸出も視野に入れている。

3.PEZA(Philippine Economic Zone Authority・フィリピン経済区庁)
フィリピン政府は、上記の諸施策のコアとなる外資誘致を推進する為に、各地に経済特区、輸出加工区を認可しているが、これら投資促進機関の中核を担う政府系機関としてPEZAを位置付けている。  
既に進出している日系企業の大部分がPEZAを窓口として、その投資優遇措置を享受しているが、以下にPEZAの概要について主要なポイントを紹介したい。
・PEZA管轄の経済特区:2014年時点で全国に325ケ所の経済特区があり、分野別の内訳は以下の通りである。
①    製造および輸出加工区 68ケ所
②    ITパーク        43
③    ITセンター      172  
④    観光経済区      19
⑤    医療観光区       2
⑥    アグロ産業パーク   21  
・また、1995~2014年における国別累積投資額では、日本の約30%を筆頭に、以下地場企業23%、米国16%、オランダ10%、英国8%、韓国3%が続く。
・同時期における製品・分野別投資の内訳を見ると、電子機器・半導体が約37%と圧倒的な地位を占め、以下ITサービス10%・金属加工製品・観光産業がそれぞ   れ9%、次いで輸送機器・電気機器・精密医療機器のそれぞれ数パーセントといったところが外資誘致の主だった分野である。   
・インセンティブ:上記経済特区への進出外資に対するインセンティブとして、
一定期間の法人税免税、資本設備・原材料などの関税免除、通信費・電気水道料金などの付加価値税免除、外国人の雇用・外国人投資家への特別ビザ取得など   が有り、更には輸出入許可取得から決済処理の支援なども行っている。
・ワンストップ・ショップ:各種許認可取得、登録手続きの一括処理などタテ割り行政を排除して、迅速かつ効率的な行政事務を行っており、1日24時間・毎週7日間の   ノンストップサービスをアピールしている。
※PEZAホームページ:www.peza.gov.ph
4.EUの特恵関税受益国(2014年12月発効)
フィリピンの輸出総額の80%以上は上記PEZA管轄の経済特区進出企業が占めていると言われる。
一方、フィリピンはEUとの間でEU向け輸出の一定品目につき、輸入税免除との特恵関税協定GSP+(プラス)を締結しているASEAN唯一の受益国である。
これはEUの発展途上国支援のスキームだが、フィリピンからの輸出先としてEUは日・ASEAN・米・中に次ぎ輸出額の約11%を占める主要な市場でもあり、このスキ
―ムを活用して更なる輸出拡大と雇用増が見込まれている。
但し、この優遇措置が適用されるフィリピンからの輸出品目は、動植物油、加工食品、繊維・服飾品、電気製品・自転車など6273品目で、どちらかと言えば軽工業品  に限定されているが、この分野においてもEU向けの日本製品の生産拠点として、日本企業の進出が期待されている。
※参考資料:在東京フィリピン大使館商務部資料

フィリピンは空路約4時間と正に近くて近い国であり、先ずは現地視察をお薦めしたい。つまるところ、“Seeing is believing”、“百聞は一見に如かず”である。 
(以下、次号)
(文責:今井周一 2016年4月25日)

 
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