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中小企業のIT戦略(7)-うまくいかなかった事例 プリント
   ~いい会社を作るためのIT導入のポイント~
中小企業において、いい会社を作るためにどういう風にITを活用していくか。
何回かに分けて考えていきたい。
第7回はIT導入を検討したが結果としてうまくいかなかった事例や、そもそもこの会社ではIT導入は不要ではないかといった事例を紹介し、うまくいかなかったポイントを考察する。

事例1:K社
【状況】
 K社は空調機器の部品を機械加工で製造する従業員10名の会社である。数年前に大口取引先2社のうち1社から取引を停止され大幅なリストラを余儀なくされた。現在は残った取引先1社からの注文が大部分で、取引先から図面と材料を支給され加工して納品するという業務になっている。仕事量は取引先がコントロールしているので、協力会社に作業依頼することもほとんどない。
 社長は注文を受けると材料と図面を従業員に渡し、納期を指示して生産させ、出来上がった製品を得意先倉庫に納入する。納期はEXCELで管理している。得意先からの納期指定はあるが、社長は倉庫で在庫状況を把握しているので、指定納期どおりに納入することよりも欠品を生じさせない程度に生産をコントロールし、作業負荷が過大にならないように管理している。
 事務用のPCと社長が使用するPCの2台とネットワークで結んだプリンタ1台がK社のOA機器のすべてである。
 K社の業務は得意先では量が少なすぎてライン生産できないような部品の加工であり、実質的には得意先生産ラインの一部と言える。
 受注量は大幅に少なくなったが、リストラが終了し業務が安定してきたので、しばらくはこのままの状態を維持するという方針であった。
【ポイント】
 ・情報流が少ない会社ではIT導入の必要はない。
 ・経営戦略がなければIT導入もない。

事例2:U社
【状況】
 U社は自動車関係の部品を作っている従業員200名ほどの機械加工メーカーである。社長は二代目で大企業の部長を務めていたが、親族である社長の引退に伴い経営を担当することになった。ITに詳しく、社内のIT化は社長が主導して実現させている。
 従業員にはICカードが配布され、作業エリアの入退室にはカードによる認証が必要であり、各工程の作業着手、終了も作業表に添付されたICカードと作業員のICカードをリーダに読み込ませることで確認する仕組みであった。
 社内で使用するマニュアルや図面、報告書などは自社開発のグループウェアに登録し、社内や出先から閲覧できる仕組みになっている。社長は自社製のグループウェアを高く評価しており、製品化して他社に売れないものかと考えている。
 一方、かなりの重量のある部品の移動が手作業で行われ、仕掛品置き場が整備されず工作機械周辺に積みあげられているなど作業環境が快適であるとは言えない状況であった。従業員の入退出も昼休みなどにはICカードチェックのない裏口が使われていた。グループウェアも市販品と比べると機能が劣り、市販ソフトを導入すれば数十分の一のコストで実現できたと想定された。
【ポイント】
 ・IT導入は経営戦略実現の手段である。IT導入を目的にしてはいけない。
 ・ITは進化の著しい技術であり、動向の把握が必要である。

事例3:S社
【状況】
 板金業のS社は大手得意先を有しており、直近の経営に不安はなかったが、一社依存体制から脱却し受注の安定化を図る必要があった。また同業他社と注文を競り合うような場面も増えてきていた。
 営業が得意先を訪問すると同業他社と比較され、その場で価格値下げと納期短縮を迫れるような状況が続いていた。いったん社に帰ってから回答したいといった応対をすると、ここで決められないなら別の会社に決めるといった圧力がかかることもあった。
 営業にとっては売価と納期の限界を把握することが商談をまとめる上で重要であった。
S社では日報や生産状況を記録する仕組みはあったが紙に書かれたデータを解析、評価するヒトも暇もなく放置されたままであった。
 このため、現場情報収集をIT導入によって賄うことで計画を進めた。
 社長や経営幹部とも打ち合わせた結果、工数、稼働率、仕掛かり状況などを把握し、原価管理、納期管理をすることで営業支援をするのが得策という結論に達した。
 幹部会でIT導入の必要性を提言したところ、実質的なオーナーである会長から以下のような反対意見が出た。
 「自分は50年間この業界で仕事をしているが、今まで、ITなどというものを導入することなく商売は出来ている。IT導入したが売上も利益も変わらない会社もたくさん知っている。IT導入などと言うが自分達が楽をしたいだけではないか」
 幹部が説明に努めたが会長を納得させるには至らず、この計画は頓挫した。
【ポイント】
 ・トップが意思決定できるような選択肢を適切に提示する必要がある。

事例4:T社
【状況】
 T社はある業界で使用される電子機器の製作、組立てをしている従業員300名ほどの会社である。特殊な機器なので競争相手は世界中でも数えるほどである。その競争相手と世界中の業界内で戦っている。
 英国の競争相手がERP(統合業務管理システム)導入したと聞き、T社でも対抗上導入することにし、経理部長、総務部長などによるプロジェクトチームを作りITベンダー選定の最中であった。ITベンダーから見積もりは1億円~2億円であった。社長から
 「自社の製品なら1円の単位で安いか高いか判断できるが、ITシステムについては高いか安いか全然わからない。当社に取って必要なものなら金を出すのはやぶさかではない。ベンダーの見積もりが妥当であるかどうか評価して欲しい」
との依頼を受けた。
 T社でプロジェクトの担当者から計画や業務内容についてヒアリングをしたところ、以下のような状況であることが分かった。
 ・導入を考えているシステムはERPを必要とするようなものではなく生産管理システムのリプレースである。ERP導入の理由として英国子会社との連携をあげていたが、その会社には営業員が数名常駐しているだけで、とくに一体運営をする必然性はなかった。
 ・プロジェクトチームとしてはベンダー調査などから2億円を提示した開発ベンダーに発注をしたいと考えていた。
 ・オフコンベースで生産管理システムを運用しているが機能的には不満はないものであった。
 必要とする機能は生産管理パッケージ導入とカスタマイズにより5千万円程度で実現可能で、2億円のERP導入は過剰投資であると報告したが、結局、流れは止まらず当該ERPを導入することになった。プロジェクトチームの主張は安い価格でリスクを犯すより、経営者も納得していることであるから十分な予算をつけて確実に導入したいというものであった。
 T社のプロジェクトチームはIT導入後の運用を担当する情報システム部が主要メンバーであった。このため、IT導入効果や経営戦略との整合性を評価するよりも、導入の容易さ、挿入後のメンテナンス性に重きを置いて評価した。要するにカネはかかっても自分たちに手間や負荷がかからないようなシステムを選んだのである。結果として会社として最良のIT導入はできなかった。
【ポイント】
 ・意思決定権者がIT導入について評価できないときは、適切な外部専門家を参画させるべきである。

事例5:X社
【状況】
 X社は電子機器用の特殊薬品を開発、製造しているベンチャー企業である。従業員は十数名であるが研究部隊や営業を擁している。ニッチな製品を扱っているため競争相手はほとんどなく、マーケットも小さいので大手が進出してくる気遣いもない。製品は国内の半導体工場で使用されており、売上の増大に伴う営業力の強化が課題であった。
 営業が全国を飛び回るわけにも行かないのでWEBを活用した受注システムを作ることを提案した。また、新製品開発が事業価値であり研究データの秘匿、保存に注力すべきであるとの助言をした。
 社長は自社でシステム開発をすると決断し、従業員に空き時間を使って開発するように指示を出した。従業員は日常業務で繁忙を極めており、結局、数年経っても受注システムは開発着手も出来なかった。
【ポイント】
 ・システム開発は一過性で負荷のかかる仕事であり、日常業務と両立させることは難しい。導入に当たっては外部資源を上手に活用すべきである。

まとめ
 IT導入がうまくいかなかった事例を考察すると以下のような結論が導かれる。
(1)情報の流れが少ない会社ではITは不要
 すべての中小企業でITが有効というわけではない。自社の情報流を把握し、IT導入が効果をもたらすかどうかの評価が必要である。
(2)IT導入には経営戦略が必要
 IT導入は手段であって目的ではない。会社が進むべき方向、成をすべきことを確認し、それを実現するツールとしてITを活用することが重要である。
(3)IT導入はトップの理解と決断が必要
 ITがなくても会社の経営は出来る。またITは効果が出るのに時間がかかる。会社のトップが長期的視点で計画的にIT導入を進めないといい結果がでない。
(4)IT導入にあたっては広く情報を集める
 ITは最近になって発達してきた技術で、現時点でも発展しつつあり、種々の技術開発やサービス提案がなされている。最新のIT動向を把握したい。
(5)外部資源の有効活用が得策である。
 中小企業では定常的にIT投資をしているわけではないので、IT導入を遂行する人材を確保することは困難である。適切な外部資源を活用したい。

  NPO法人ITC横浜副理事・未来計画代表 ITコーディネータ 齋藤順一


 
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