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セミナー「倍数性コムギの遺伝資源を利用した新しい食糧の創成」 プリント
    ~IDEC・第120回産学交流サロン~

         受粉による異種染色体の導入でコムギの新種を作る
         生活習慣病を抑える機能性食品のパンもできる

  横浜企業経営支援財団では10月19日、第120回産学交流サロンを開催し「倍数性コムギの遺伝資源を利用した新しい食糧の創成」をテーマに講演会をおこなった。講師は横浜市立大学木原生物学研究所の。以下はその講演会の概要。

6000系統ものコムギの種子を保存
hd-071031-1.jpg  コムギはイネとそれほど変わらない時期に日本に伝わり弥生時代にはすでに栽培されていた。日本人にとっては非常になじみ深い作物である。戦前までは二毛作で量産されてきたが、戦後は国策で輸入に切り替えたことから作付面積が減少し、現在の需給率は14~15%と低下してしまった。
 コムギはイラクのチグリス、ユーフラテス河の上流域に生育していた野生種がその始まりだ。そして、同地域に興ったメソポタミア文明ではフタツブコムギを栽培し食物を自給することで人々は繁栄した。そして、8000年前に現在のパンの原料となるパンコムギが登場する。
 これらのコムギを倍数性(染色体を何セット持つか)でみると、フタツブコムギは4倍体で、パンコムギは6倍体だ。つまりパンコムギには異種植物からもたられたゲノムが3セット含まれていることになる。
 このように長い年月をかけて育てられてきたコムギは非常に興味深く、また遺伝的に離れた植物種とも容易に交配できることで多くの可能性を秘めている。木原生物研究所ではこのコムギの種子を約6000系統保存し、現在研究に役立てている。

塩害に強いコムギを作り出す
 木原生物学研究所では異なるゲノムが共存する倍数性コムギや、異なる染色体を導入した異種染色体導入コムギの発現遺伝子を網羅的に解析している。遺伝資源を活用したり、ストレスに応答する遺伝子を操作したりすることにより、たとえば塩耐性や赤かび病に抵抗性のあるといった環境ストレスに強いコムギを作り出そうとしている。
 塩耐性については、日本がうどんの原料としてコムギを大量に輸入しているオーストラリアをはじめとして世界中から注目されている。沿岸地方だけでなく、内陸部でも乾燥地帯では畑に地下水をくみ上げて栽培しているため、土中の塩分が濃くなりやすく塩害が問題となっている。
 そこで木原生物研究所では、保存しているコムギの種子からどの系統が塩につよいのか検定解析し、また、塩に応答する遺伝子を操作することで品種改良に役立てるプロジェクトを開始した。

酸性雨でも成育できるコムギ
 地球環境の変化により酸性雨の降る地域が広がっているといわれているが、土壌が酸性になると、土中に含まれている金属元素のひとつであるアルミニウム(Al)がイオンとなって溶け始める。するとコムギの根はそれを吸収し、その成長が著しく阻害されてしまう。
 そこで、私たちはAlに強いコムギを解析した結果、その耐性となる「Alで活性化されるリンゴ酸の輸送体」を作る遺伝子をはじめとして、多くのAlに応答する遺伝子を見出した。これらの遺伝子を操作すれば、Alに耐性のコムギが作出できるに違いない。
 これを応用すれば酸性雨が比較的多く降る地域でもコムギを栽培することが可能となり、世界の食糧生産にもプラスに働くはずだ。

生活習慣病に予防効果のあるコムギ
ま た、現在の研究中のものには「異種染色体導入コムギの代謝工学」というものもある。研究の背景には、コムギの高品質、高付加価値化がある。遺伝子組換えによる作物の生産は社会的に受け入れていないが、受粉によって掛け合わせて従来育種法で新種を作り出す異種染色体導入であれば、自然の理にかなっているので、この方法を活用している。
 これを利用すれば、たとえば高血圧を抑える効果があることが知られているフラボノールを多く含んだオオムギや、血糖を降下させる効果のあるβ-グルカンを含んだオオムギが作れる可能性がある。
 実用化されれば、日常的に食べているパンなどが生活習慣病に予防効果のある機能性食品となるのである。

産学連携でこそ可能となった研究 
 なお、このオオムギ染色体研究は産学連携で行われている。プロジェクトの統括ならびに機能ゲノムの解析には横浜市立大学、細胞構成成分の精密計測は理化学研究所植物科学研究センター、系統の育成・供給とプロテオーム解析は近畿中国四国農業研究センターが担当している。
 さらに、食品としての加工適性化については日本製粉、機能性の検定や用途開発はファーマフーズとファンケルがそれぞれ担当している。
 これらのコムギのゲノム科学の研究を続ければ、近い将来訪れるといわれる世界的な食糧危機にも役立てることができるだろう。

セミナーでは次のような質疑応答があった。
Q ダイズなどにこの研究は応用できるのか。
A もちろん応用できる。日本食に多く使われているにも係わらず、ダイズはそのほとんどを輸入に頼っているので、農林水産省もこれを見直し、ダイズの自給率を上げようとしている。
Q 国内での利用はどうか。
A 国産のコムギでパンを作りたいというニーズがある。このため、北海道で強力粉用のコムギの栽培も行っている。
Q 地球温暖化による影響はどうか。
A コムギは極端な暑さには弱いが乾燥には強い。もし気温が上がると栽培できない畑が出てくるだろう。ただ新しく畑を増やすことは難しいので、生産量は将来減少する可能性もある。
Q この研究を知財という観点から見るとどうしているか。
A 論文発表の前にまず特許を申請するように心がけている。
 
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