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中小企業のIT戦略(5)-事例紹介:仙崎鐵工所 プリント
   ~いい会社を作るためのIT導入のポイント~

 中小企業において、いい会社を作るためにどういう風にITを活用していくか。
 何回かに分けて考えていきたい。
 第5回は製造業のIT導入事例の第2回として、川崎市にある製缶業の株式会社仙崎鐵工所を紹介する。

1.会社概要
 仙崎鐵工所は、創業者が京浜地区の造船所で製缶の技術を習得後、昭和9年に独立して会社を興し現在に至っている。75年の歴史を持つ。従業員は20名。
 社長は3代目の沼りえ氏である。
 主に電磁流量計、X線厚み計などの大型計測器の筐体(ケーシング)や橋、高速道路の揺れや伸びを吸収する橋梁収縮装置など大型の精密製缶品を製作している。製缶というのは比較的厚い鉄板や型鋼から部材を切り出し、曲げ、溶接などの加工を施して製品とする作業である。
 製缶業にも扱う製品によって得意分野がある。仙崎鐵工所は数十~数百枚の図面で構成される比較的部品点数が多く、寸法公差の厳しい受注生産型の精密製缶品を得意としている。
 業務をとりまとめと製缶に特化し、その他の材料調達、機械加工、塗装、機能試験などの工程は京浜工業地帯の地の利を生かし近隣の協力会社に委託している。
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2.システム導入にあたって
 横浜・川崎の中小製造業はIT導入が活発である。仙崎鐵工所も1985年頃には既にオフコンを導入している。その後、発注先から定常的な納期短縮やコスト削減、VAN(専用線)による受発注システムの導入・変更などの要求が強まり、2000年にはPCによるオープンシステムへリプレースした。
 しかし、システム導入にあたって、やりたいことをベンダーに伝えきれなかったり、ベンダーが業務特性を十分理解できなかったりしたため、機能的に満足のいくシステムとはならなかった。
 この体験がトラウマとなり次のリプレースになかなか踏み切れない状況が続いた。
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 IT導入に当たって信頼できるサポーターを探していたわけであるが、川崎産業振興財団にITコーディネータを紹介され、リプレースの検討を開始した。
 経営者のIT化方針として
  ・生産管理システムの見直し、見積もりに重点を置いたシステム再構築
  ・協力会社委託作業、調達資材の追跡システムの導入
  ・インターネットを活用した協力会社との情報共有
を実施するものとし、これに基づいて提案依頼書(RFP)を作成した。
 ITベンダー数社から提案を受けた。個別開発やパッケージを使う提案があったが、開発の容易さと期間短縮の観点から生産管理パッケージをベースにすることにした。
 ヒアリングや評価の結果、大手ベンダー系の会社に開発を依頼した。

3.IT導入のポイント
 仙崎鐵工所のように一品受注生産型の企業では、生産計画や工程進捗管理は現場グループリーダーに任されることが多く、情報は人間系を介して伝達される。また、生産情報も図面が支配的であり、社内に流れる情報は少ない。したがって、情報流が少なくIT導入の効果を挙げることが難しい業種といえる。
 IT導入に当たっては、仙崎鐵工所が製品の取りまとめを担当し、多くの工程で協力会社に業務委託していること、受注までの見積積算で大量の情報を扱うことなどに注目した。
 そこで、得意先からの見積引き合いや受注データのWEB-EDI経由取り込み、部品展開、過去の見積を参照しながらの見積積算、協力会社への発注処理、社内生産指示などで構成する生産管理システムを開発することとした。部材のバーコード管理を導入し、協力会社からの納品管理や生産状況の把握を容易にした。協力会社とWEB経由で注残、支払い残などを情報共有する仕組みをつくり、作業山積み、外段取りなどの作業管理が容易にできるようにした。
 市販の生産管理パッケージは部品展開や材料発注、在庫管理などに特徴を持たせ、量産型の製造業に適合したものが多い。仙崎鐵工所のような受注生産型に適合させるため、ベンダーが保有する生産管理システムをベースに機能が足りない部分は個別開発で追加した。
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4.IT導入の効果
 標準的な生産管理システムは大企業の量産型プロセスに対応しているため、仙崎鐵工所のような一品受注生産の中小企業に適合する部分が少なく、新規開発部分が多かったため立ち上げまでには相当の時間と労力を要したが、現在では安定稼動している。
 IT導入によって以下のような効果があがった。
  ・注文書の発行時期短縮
  ・リードタイムを削減
  ・仮伝票の発行枚数削減
  ・協力会社との情報共有の実現
(注:実際には数値評価しているが、ここでは定性的表現にとどめてある)

5.IT導入成功のポイント
 IT導入は経営者の成功への強い意志が必要であるが、仙崎鐵工所の沼社長は何度かのITシステム導入が満足できなかったこともあり、意欲的に導入を進め運用にこぎつけた。
 その他のポイントとして以下を挙げたい。
(1)発注者とベンダーの相互理解
 仙崎鐵工所のそれまでのIT導入であった問題点である。
 発注者は業務には精通しているがITには疎く、ITベンダーはその逆である。
 このため意思の疎通や相互理解が進まず、よいシステムが構築できないケースが多い。
 経営者は自身がITで実現したいことをうまく表現できず、伝えられない。また、ITの現状を把握できていないため過大な要求や過小すぎる要求をしたりすることもある。
 ITベンダーは出来るだけ早く製品を完成させたいという意識のためか、適切な代換案を示さず、出来るか出来ないかの二者択一で返事をすることが多い。
 今回は未来計画の齋藤代表がITコーディネータとして両者の調整に当たったためスムーズに打ち合わせを進めることができた。
 ITコーディネータのような経営とITの両方が分かる外部人材を、システム構築の間サポーターとして活用することで、システム開発のリスクを大幅に削減できる。
(2)情報流の把握
 IT導入とは企業内の定常的な情報流をITの利活用により伝達性を高めることである。
 IT戦略の基本は、受注-調達-生産-発送の生産軸、市場調査-開発-試作-量産のマーケティング軸、顧客対応のCRM軸の3軸に対して、経営戦略の実現に寄与する情報流を調査、分析し、情報流の改善に役立つソリューションを確認していくアプローチにある。
 こうした手順をしっかり進めることがIT導入の成功につながる。
(3)成功させる
 仙崎鐵工所の以前の導入例に見られるように、IT導入を失敗してしまうと、それがトラウマになって次の導入になかなか 踏み切れなくなってしまう。失敗による従業員のモラール低下や、経営者に対する評価失墜の懸念もある。
 したがってIT導入を決断し、導入を始めたら成功させることが肝要である。
 現在やっていることをITに置き換えるだけなら比較的容易であるが、それでは大きな効果は期待できない。ITの導入と同時に業務改革も車の両輪として実現させたいところである。
 このときに無理をしないことである。経営者は現状を無視して理想や期待を述べがちである。ITが課題を解決する手段であることを忘れ、IT導入を図れば自動的に課題が解決できると誤解することもある。この点は注意したい。
 成功に導く秘訣は、現状をよく把握し、自社の能力を見極め、IT導入の効果とリスクを評価し、身の丈にあったシステムを導入することである。
 経営者が判断や評価に迷い、苦しむようであれば外部専門家を積極的に活用することを奨めたい。

   (NPO法人ITC横浜副理事・未来計画代表 ITコーディネータ 齋藤順一


 
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