~いい会社を作るためのIT導入のポイント~
中小企業において、いい会社を作るためにどういう風にITを活用していくか。
何回かに分けて考えていきたい。
第4回は製造業のIT導入事例の第1回として、川崎市にある電子部品設計・製作業のタカネ電機株式会社を紹介する。
1.会社概要
タカネ電機株式会社はワイヤーハーネス製作やプリント基板実装を主業務にしている。1964年に設立された。国内工場は川崎、宇都宮、茨城などに得意先のキヤノンの工場地方進出に呼応する形で展開していった。中国にも進出しており、東莞、蘇州などに工場を有している。
売上は85億。内訳は国内35億、中国などの海外45億である。従業員は概算で国内160名、中国1400名である。

2.システム導入にあたって
ITシステムは経営戦略を実現する手段である。そこで、経営戦略の明確化を図るため経営者の考えを聞いた。
経営者である簔原社長から、今後の施策として、大量生産品については海外工場との連携、新規国内顧客獲得、試作を受けて大量製品受注、技術力活かした補修業務請負などを図っていきたいという経営戦略が示された。
さらに、これらを実現するためには、「多品種変量生産に対応できる柔軟な生産構造を持つ会社」にする必要があるという方針が示された。

量産型や単純労働で組み立て可能な製品はすでに中国に生産移管されており、国内工場では付加価値の高い製品を生産する必要がある。
タカネ電機は多種・多様な顧客からの小口注文を受け、生産量の頻繁な変更や短納期に対応することが国内工場の生き残る道であると考えた。
すなわち多品種変量生産に対応し、「変化」「変更」を前提としたITシステムの導入が必要となる。
そこでIT化方針として
・多数の部品を的確に管理できる生産管理システムの構築
・ネットワークによる情報共有
・バーコードによる材料、仕掛品管理
とし、これを実現するために必要となるITシステムを導入した。
効果目標としては
・生産リードタイムの短縮
・直間比率の向上
・理論在庫と実在庫の差異の改善
とした。
タカネ電機では以前より生産管理システムを導入していたが陳腐化しており、リプレースの方針であった。
3.IT導入のポイント
基幹業務である生産管理へのIT導入がポイントである。
製造業といっても加工、組み立て系、大量生産、一品生産など生産形態によって生産管理のアプローチは異なる。
タカネ電機は組み立て系の製造業である。組み立て系では調達、在庫管理、仕掛管理などが重要である。
特に留意したのは以下の点である。
・大口得意先はEDIを採用しており、この情報を取り込み手配、生産に活用する。
・納期が非常にタイトであり仕入先からの部品入荷後に生産を開始していたのでは納期が間に合わないことがあり、部品の納入見込みにあわせて生産を開始するケースがある。このため購買、管理、製造各部門間の情報共有をはかる。
・ピッキングや仕掛品の管理を容易にするためバーコードを導入する。
・生産計画は自動化しないで熟練作業者に委ねる。そのため仕掛かりなどの情報をタイムリーに提供する。
・MRPは以前使用していたが生産形態が大量生産から変量生産に代わり、材料発注には将来の受注予測など高度な判断が必要であり、システムでは対応できないと判断し採用しないこととした。
こうした検討事項を踏まえてITシステムのプロセスを以下のようにした。

I T導入にあたっては、経営戦略の確認、IT戦略の策定、ベンダー招請のための提案依頼書(RFP)作成、ベンダー評価・決定、システム開発、運用の各プロセスを経て、およそ1年6ヶ月で運用にこぎつけた。
ITシステムは宇都宮工場に導入し、その成果を他工場に展開していく戦略を採った。
宇都宮工場に工場長を長とするプロジェクトチームを編成し、本社企画部と外部専門家としてITコーディネータが支援する形で開発プロジェクトを進めた。
システムはDBMSパッケージをベースに個別開発で構築した。
4.IT導入の効果
IT導入によって以下のような効果が得られた。
総括すれば、業務の見える化が達成でき、課題の分析、適切な判断、対策を取れるようになったということである。
・実在庫と理論在庫の乖離率が縮小し棚卸の精度が向上した。
・保有在庫期間が減少し不良在庫の削減に効果があった。
・受注後の部品手配開始時間が短縮したことによりリードタイムの短縮が図れた。
・製造工程管理所要時間が短縮したことによりリアルタイムでの生産管理が可能となった。
・支払い手続き所要時間が短縮したことにより、迅速な経理処理が可能となった。
・手書き書類帳票の削減、自動作成化により、ペーパレス化が促進されるとともに効率的な業務処理が可能となった。
・各部門がネットワーク情報を参照するようになり情報共有が促進された。
・バーコードについては従業員アンケートで「非常に良い」又は「良い」と支持を受けており、正確かつ迅速な情報処理が可能となった。
(効果については実際には数値を把握しているが、ここでは定性的な表現にとどめている)
5.IT導入成功のポイント
タカネ電機の事例に限らないが、経営トップのIT導入に対する強い意志が成功の最も重要なポイントである。
トップダウン型の意思決定をしないとIT導入は成功しない。
その他、中小企業のIT導入で考慮すべき点をいくつか挙げると以下のようになる。
(1)人と調和するIT化
製造系中小企業の業務は、大手企業のしわ寄せを受けやすく、非定型、非定常な業務が集まりやすい。また、このような業務を消化し、取りまとめる能力が中小企業の存在意義である。
こうした観点から闇雲に自動化を目指すのではなく、定型処理はIT系、非定型、非定常は人間系といった形で、ITと人間の調和を図ったシステム作りが必要である。
特に、システム導入によって直接影響を受ける現場の従業員の理解と積極的参加を得ることが、成功のカギである。
(2)身の丈にあった生産管理システム
生産管理システムは導入されているが、実際の運用は、グループ長など現場の責任者が、人的リソースの投入、資材調達、工程管理などを取り仕切っているのが実情である。これは極めて優秀な生産管理システムといえる。
しかし、人的管理にはスピード、容量、情報の共有化などの点で限界があり、短納期、高ユニット化、高品質の製造を要求が厳しくなると対応が困難になる。また、異常時の対処も困難になる。こうした状況を打開するためにIT活用による生産管理が必要となるが、その場合も安易に大企業向けに最適化されたシステムを導入するのではなく、対象企業にあったシステム構築を個別に考えるべきである。
(3)外部人材の活用
IT化はプロジェクトである。非定常、一過性の業務であり、実施中は負荷が増大する。内部の人員で、プロジェクトやITに精通している人材は少なく通常業務を消化した上でのプロジェクト参画には困難が伴うケースが多い。そこで、プロジェクトの期間中プロジェクトやITの信頼できる専門家を招請し、協力してプロジェクトを遂行する体制を組み円滑なプロジェクト推進を図るべきである。
こうした人材として活用できるのがITコーディネータである。
ITコーディネータは経営戦略の立案、明確化から、IT戦略策定、ベンダー決定、IT導入プロジェクト管理、運用まで幅広い分野をカバーする専門家である。
(NPO法人ITC横浜副理事・未来計画代表 ITコーディネータ 齋藤順一)
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